西尾哲夫「アラビアンナイト」(岩波新書 asin:4004310717)

図書館本、読了。
最新の知見にもとずいた、アラビアンナイト、西欧、日本、アラブ、それぞれの受容史。


以下メモ。

  • 有名な、「アラジン」も「アリババ」も、本来の「アラビア語写本」には、まったく存在しない。西欧人の発見後に、シリア人が偽書として制作した「続・千夜一夜物語」なるものから、もぐりこんだもの。
  • リチャード・バートン翻訳の「バートン版」により喧伝された、「稀代のエロティック文学」というのも、誤り。「アラビアンナイト」に、不倫や浮気の話が多いのは確かだが、バートン訳には、エロティックな単語を非常に多く付け加えた跡がある。
  • 西欧によって「発見」されるまで、アラブ文化内では「アラビアンナイト」は、重要視されていなかった。それは、文語と口語とがいりまじった文体による。(文語で記載された文学が、アラブでは伝統的に重要視されていた)
  • 写本により、結末には違いがある。ある写本では「王は既に悔い改めており、シェヘラザードを賞賛する」。別の写本では「王はシェヘラザードを殺そうとし、彼女は二人の子を連れて、命乞いする」


ところで、(AMAZONのレビューにも書いてあるが)若島正が翻訳しているカルト・ファンタジーアラビアン・ナイトメア」(ISBN:4336035865)の著者の人・ロバート・アーウィンって、オックスフォードの研究者で、この本でも再三引用されている画期的なアラビアンナイト研究書「必携アラビアン・ナイト―物語の迷宮へ」(ISBN:4582308031)の筆者でもあるのだね。