中込重明「落語の種あかし」(岩波書店 asin:4000024213)

図書館本、読了。
小谷野敦先生のブログ(http://d.hatena.ne.jp/jun-jun1965/20070519)で紹介されていた本。大変、面白かった。

島田雅彦が法政大教授になった時は公募で、私も出して落とされましたが、その時、中込重明という法政出身の36くらいの優れた落語・講談研究者も出して落とされたのです。最初から学部長の川村湊が島田に決めていた偽公募だったと、複数の情報源があります。中込氏はものすごく悔しがり、その後、脳腫瘍を患って38歳で亡くなりました。その死の前後に著書が二冊出て、優れたものでした。私は『落語の種あかし』の書評を書き、発病してから中込氏と結婚した方から手紙をいただいて、公募事件について知ったのです。


とある。実際は39歳で亡くなったのだが、実に惜しい方をなくしたと思わせる本であった。


以前、宇井無愁「落語のみなもと」(中公新書)という本を読んだが(http://d.hatena.ne.jp/kokada_jnet/20050408#p2)。
この本は同趣向だが、著者がさらに博覧強記で、「円朝作」とされていた「蝦夷錦古郷家土産」が実は外国文学の本格であると指摘したり・・。落語と似たシチュエーションのj話は、江戸文学や民話以外にも、中国の小説、仏教説話、ヨーロッパの民話にもあると、述べている。
説話や小噺や小説が、思わぬ地域から伝わり、現代の落語という話芸に結実している、その事実に感動する。


著者は故・松田修の弟子で、パーキンソン病をわずらった松田の晩年、授業が円滑に行われるよう介護したという。
だが、その著者も、若くして亡くなってしまうという・・人生不条理。


延広真治による「あとがき」によると、著者は、博覧強記で「日本文学辞典を脳裏に刻した」などと、スゴイことが書いてある。また、毎年200回も落語会に足を運ぶほどの、大の落語好きだったという。
その「あとがき」時点で、すでに中込は病床にあった。
そして、2004年の2月に師の松田が亡くなり、本書の発行直前の同年3月、39歳の誕生日のすぐ後に、中込は脳腫瘍で亡くなった。


ところで、この本でとりあげられているのは、以下の噺。
「芝浜」:金を拾う正直説話
文七元結」:身投げを止める話
「帯久」返した借金を、すきを見て盗む。名捌きで解決。
猫の恩返し」猫が小判を盗んでくる話。
「猫定」猫の鳴き声でばくちに勝つ話。
厩火事岡本綺堂の「番町皿屋敷」に影響を与えた。
大山詣り」坊主にされた男が相手の女房を坊主にする話。
黄金餅」死体から金が出る話
「悋気の火の玉」先妻と後妻の火の玉が戦う話。
「三年目」死にいく妻に再婚しないと約束したのに、再婚してしまう夫の話。
「風呂敷」浮気相手を隠した物を、第三者が「こういう話がある」とアクションして、持ち出してしまう話。円朝が西洋種を翻案した可能性も。
「つづら」浮気相手の男が入った箱類を、旦那がその実家に持っていって、売りつける話。
「短命」腎虚(性交をしすぎると、精をだしすぎて腎虚という病気になるという概念)を元にした話。
中村仲蔵」 「西国立志編」の影響を受けた「出世話」。元寝たは三代仲蔵の「手前味噌」。
「塩原多助一代記」拾い物で儲けて、大火で大儲けする「川村瑞賢」が元ネタ。
蝦夷錦古郷家土産」 「あったことのない叔母」に会いに行く娘を、介抱する娘。だが娘は死に、介抱した娘は死人になりかわって、裕福な叔母の元へ行く。ながらく、円朝の北海道旅行の際の取材話とされていたが。西洋種の翻案。