中込重明「明治文芸と薔薇 話芸への通路」(右文書院 asin:4842100419)

図書館本、読了。39歳でなくなった著書の、処女出版本。


色々なテーマの論考集で、主に、明治文学を、話芸や、江戸文芸とのかかわりで論じている。
なので、「明治文学に登場する薔薇」を論じた巻頭論文からとった、この題名はちょっとミスマッチかな。


たとえば、漱石作品に、落語や江戸説話の影響を見る。一葉の「経つくへ」「大つごもり」への影響を、江戸文芸に探る。
明治期の、江戸洒落本の影響を受けた「笑いの文学」が、正当の文学史から無視されていることを訴える。


著者が得意とする落語に関しては、「落とし噺としての落語」と「笑いのない人情噺」を区別すべきことを強調し、「言文一致運動に影響を与えた」のは、「円朝の落語」ではなく、会話よりナレーションが多い「円朝の人情噺」だと論じる。
また、「講談」が明治〜昭和前期にかけて、日本文化に与えた影響の大きさが、文学研究で無視されていることに抗議し、明治初期の講談師「ニ代目・松林伯円」の重要性を強調する。


なお、岩波書店から近年、刊行された「新日本古典文学大系・明治編」には、「落語・怪談咄集」「講談・人情話集」が収録された、という。ようやく、著者の主張がいれられる時代となった。
著者の遺志をつぐ、これからの新研究が楽しみである。