中島和夫「ある魂の履歴書」(武蔵野書房)

図書館本、読了。塩山芳明推薦本で、確かに面白かった。
著者は講談社の編集者で、末期の『キング』編集部から『群像』に移り、編集長まで勤めた人。


編集者時代につきあいがあった、「文学に憑かれた」特異な人物を3名をそれぞれキャステイングした、3編の短編小説集。
なかでも、巻頭の、私小説に徹した作家「耕治人」がモデルの、「ある魂の履歴書」がピカイチ。
耕治人の晩年、彼が師とあおいだ川端康成のスキャンダルを突然、小説に書き始め、それまでの小心な人柄からの豹変に編集者たる著者は驚く。彼には資産もなく、老妻以外に身内もおらず、小説家としても地味な存在であるが、小説を書くしか生活費を得る術がない。
そして、耕治人は妻が病気(脳軟化症)となり、悲惨な老夫婦の生活となるが、それを丹念に描いた私小説が「評価」され、突然「時の人」となった矢先に、亡くなる。