「宮崎駿の世界 バンブームック クリエイターズファイル」(竹書房 ISBN:4812419433)

横須賀図書館本から取り寄せてもらった図書館本。読了。
ハウルの動く城」公開直後に刊行された本だが、「宮崎駿」という人自体が、いろんな側面から語れる「多面体」のような人なので、とても、面白い本だった。暴露的なネタも結構あったし。
以下、メモ。

  • 石井克人×鈴木敏夫対談より(これは対談としては出来が悪い)
  • 斎藤環
    • 宮崎アニメは「少女のエロス」を中核に据えているからこそ、素晴らしい。
  • 氷川竜介「現実の束縛を越える宮崎式アニメーションの力」より
    • 宮崎アニメは音を消しても話がわかる。映画の原初刑であるサイレント映画に近い。
    • 宮崎アニメのレイアウトは、現実のパース画とは違ったゆがんだレイアウトとなっている。そのゆがんだレイアウトに「ピッタリあう」キャラクターの動きを、アニメーター宮崎がスタッフに指示することにより、宮崎アニメ的快楽が発生する。
  • 押井守×上野俊哉対談(押井守宮崎駿とのプライベートな人間関係を話す、という内容)
    • 宮崎駿将棋好きである(これ読んで、「将棋世界」編集部に宮崎監督登場させてくださいと、メール提案してしまった)。
    • スタジオジブリでのスタッフ教育は、「その人の考え方まで変える」方式で、スターリニズム(マオイズム)そのもの。作品ごとに「従来の作品の思想を塗り替えている」作家だが、アニメーターとしての姿勢「共産主義者」そのものである。
    • 宮崎駿は普段、1日3時間くらい、鈴木敏夫と話をしている。他人と話すことがストレス解消となっている。押井がジブリに行ってつかまると、それくらい話を聞かされる。
  • ササキバラ・ゴウ「監督以前の宮崎駿
  • 津堅信之「アニメ史からみた宮崎駿とその作品」
    • 宮崎は若年期、ディズニーからではなく、ロシアアニメ「雪の女王」や、フランスアニメ「やぶにらみの暴君」から影響を受けた。
    • 単独監督でこれだけの本数の長編作品を監督しているのは、世界アニメ史的にも稀有な存在。
    • 日本アニメ界では孤高の存在であり、模倣者や追随者は現れていない。
  • 永山薫「漫画「風の谷のナウシカ」の性とフラジャリティを巡って」
    • 漫画「ナウシカ」の絵物語的世界は、記号的な手塚漫画への批判。
    • 漫画「ナウシカ」のナウシカは女性である必然性を感じさせないが、結末の「偽りの楽園」で自身の女性性に直面する。それは、「女性を描けない」と言われた宮崎自身の闘争でもある。
  • 米沢嘉博「マンガとアニメと宮崎駿」(この著者の論考をもう読めないのか、と考えながら読むと、悲しいモノがあった)
    • マンガとアニメと人的交流を煩雑に行ってきたし、また、マンガとアニメと映画は、互いにその技法を交換し合ってきた。


以下は宮崎アニメと無関係な、鈴木敏夫が話していたこと。石井克人小栗康平が好きだと話した時に出た話題。なるほど、鈴木敏夫っていいセンスしてるな、と思った。

  • 小栗は島尾敏夫の「死の棘」を映画化しているが、それじゃあ単なる「不倫映画」。妻の島尾ミホの「海辺の生と死」とあわせて映画化すればよかった。奄美大島に軍人として赴任してきた島尾と、村長の娘ミホとが純愛をする。そして、戦後、生き残った二人は東京に出て結婚するが、島尾が浮気することにより、悲惨な生活が訪れる。この2つをあわせて撮ると、面白い映画になったであろう、と。


あとでAMAZONのレビューを見ると、「これはジブリの暴露本である」という題名のレビューが興味深い指摘をしていた。

ふるくから付き合いのある押井守が、昔から観察してきたスタジオジブリ宮崎駿を、さらに、宮崎駿とその下にいた庵野秀明の関係などを、公式本(ジブリは必ず「監修」という名で、編集協力という名のチェックをしてきたのだ)では絶対に出せない内容が満載だ。
評論家や批評家などの宮崎作品およびスタジオジブリ評よりも、断然この本のおすすめはそれぞれが2万字を越える対談・鼎談である。
今回のハウルの動く城で、かなり宮崎のアニメタッチが変わったのがわかったでしょ? 
その理由も、例えば、もののけ千と千尋などで作画監督を担当してきた安藤雅司がやめたことも、○○○も関係あるのかもしれない。ジブリを通過してきた人間たちが、ジブリ宮崎駿を語り、なおかつスタジオジブリとしてはあまり日の目を浴びせたくない内容がぎっちりなのである