佐藤優「自壊する帝国」(新潮社 ISBN:4104752029)

図書館本、夜中に読了。これはものすごく、面白かった。
同志社の大学院でプロテスタント神学を学び、チェコ神学者を研究していた学徒兼キリスト者であった著者が、「チェコに研修留学できるかもしれない」との思惑で、たまたま、外務省に入る。
だが、案に相違して、ゴルバチョフペレストロイカ実行中のロシアに派遣される。そこでたまたま、モスクワ大学の神学科に出入りしたことから、反体制派の人々との縁が偶然のように広がり、さまざまな個性的なインテリ・政治家たちの群像と濃密な交際を続けながら、ソ連崩壊の過程を目撃することになる。
(旧ソビエトを含むヨーロッパ世界では、キリスト教の、世俗的な、また、知的なパワーは日本人の我々が想像するより遥かに強かったのだ)


特に以下の2人の人物は、まるでドストエフスキーの小説から飛び出たような、19世紀的な人物である。

  • ラトビア共和国出身の金髪の美青年・サーシャ。モスクワ大学の秀才であり、学者としても一流になる抜群の知性を持ちながら、「レーニンの手法を逆用して、悪の帝国・ソ連を壊す」と豪語し、バルト3国の独立運動に関わり、また、「ロシア・キリスト教運動」という党を立ち上げる。荒れた家庭に育ち、その時、救ってくれた年上の師を妻としながら、モスクワでは、多数の知的美女とハーレム的な関係を持つ。
  • 150kgの巨漢、神父でありながら政治に関わる、ボローシン。彼もモスクワ大学の秀才であったが、ソ連の醜悪な社会で出世したくなく、神父となる。キルギスに赴任した時は、イスラム教徒にも洗礼をほどこした(中央アジアムスリムは、キリスト教徒が強いのは、洗礼を受けて、自然の魔力を身につけていると信じているという)。その語、国家と宗教のあり方を哲学的に考察した結果、イスラム教徒に改宗する。


その他、ラトビアで、ロシア正教内の異端派「分離派の無司祭派」の礼拝所を、サーシャに案内されて尋ねるシーンも忘れがたい。ロシアでは徹底的に弾圧されたこの宗派は、ラトビアで細々と生き延びていたのだ。
ちなみに、日本のロシア菓子屋「モロゾフ」のモロゾフ一族も分離派だという。