医療現場に、日本では絶滅したはずの「知識人」がいた 小松秀樹「医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か」(朝日新聞社 ISBN:4022501839) 

図書館本、読了。これは、すごい名著で、大感動。
これほどの素晴らしい本が、ノンフィクション系の賞をなぜ取らないのかな。(いや、私が知らないだけで取っているのか?)


著者は現職の泌尿器科医だが・・。それとともに、社会に対して、自分の専門知識と、自分が蓄えた幅広くて見識高い学識を元に、自分の意見を強く主張していく、真の意味での「知識人」だ。(嫌味なく、ちらつかせる、文系的教養も素晴らしくかっこいい!) 
こんな立派すぎる「知識人」が、日本にまだ、いたとは・・。渡辺淳一とか、医者出身の作家たちは何してるんだよ。あんたらが、やるべき仕事だろう、こういうのは。「ボケちから」だかなんだか言ってる場合じゃないだろう。


この本の主張は、本来十分な予算を与えられていない医療の現場の人々が、「被害者に同情的すぎる」マスコミ、警察、検察などに、「本来、個人が責任を取ることはできない、システム的なミス、人員的に必然的に発生するミス」にまで、過大な責任を取らされ、刑事被告人にまでされていることに恐怖を感じ・・。
そういったリスクが高い、外科や産婦人科や小児科、総合病院の現場から、どんどん逃亡していっているというものだ。


彼らの逃げ場は、開業や、民間クリニックでの勤務だ。そして、彼らに逃げられて、ますます人員が少なくなった総合病院は、さらに運営が苦しくなるという、悪循環。
おそろしく説得力がある筆致であり、そしてこの国の医療の将来が恐ろしくなる。


医師等を攻撃する人々は、「過剰な安全幻想と不老不死願望」をもっているが、著者は「医療は、本来的に人体に侵入的なものであり、必ずリスクを持っている。そして人間は必ず、死ぬものだ」という。


この本は本来、検察官向けの意見書として書かれたという。
また、最後の章は「新聞記者などのジャーナリストたちは自分で考えておらず、空気のような『世論』しか書いていない」というジャーナリズム批判であり、編集担当の朝日新聞社の編集者と大議論となったという。
「編集者と対立した」という経緯を、そのまま著書に書けてしまう、著者の覚悟と迫力もすごい。
是非、著者の意見が、この国の医療の将来を変えるために、受け入れられてほしい。