赤瀬川原平「オブジェを持った無産者 赤瀬川原平の文章」(現代思潮社 1970年 ASIN:B000J92M0I)

図書館本、読了。
赤瀬川の処女出版で、伝説的な「千円冊裁判」について詳細に記したもの。
この当時の赤瀬川の文章は、「左翼臭プンプン」なのだが、「裁判」に関する文章はやはり面白い。


そして、この本が絶版で文庫化もされておらず・・。この裁判について、手軽に赤瀬川ファンが知れるのは、ハイレッド・センターの記録「今やアクションあるのみ」(ちくま文庫)からなのだから・・。
私も勘違いしていたが、赤瀬川は「千円札の模写をして、それにあきたらず、千円札の印刷を印刷所に依頼して、偽札製造犯として逮捕された」のではないのだ・・。


これについては、世間に誤解が流布しているようなので、WIKIPEDIAの「千円札裁判」を作成したので、そちらから引用すると・・。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%83%E5%86%86%E6%9C%AD%E8%A3%81%E5%88%A4

<赤瀬川が作った作品>
赤瀬川は、「オブジェとしての紙幣」に興味をいだき、1963年3月の読売アンデパンダン展に、千円札をルーペで詳細に観察し、自筆で丹念に、原寸の200倍の大きさに拡大模写した作品を発表した。
さらに過激なことをと、赤瀬川は同1963年に「千円札の印刷」を考え、「千円札をオモテだけ、一色で印刷してください」と2ヶ所の印刷所に依頼し、その印刷物を加工して作品として発表する。
発表された作品は「数十枚の千円札をコピーした紙を板にはり、何十個ものボルトを止めたもの」「数十枚の千円札をコピーした紙を『包み紙』とした梱包作品」「数十枚の千円札をコピーした紙に『切り取り線』をつけた作品」等であった。


<捜査及び裁判>
1964年1月に、赤瀬川は”自称・前衛芸術家”として、当時起きていたニセ札事件「チ37号」につながる、ニセ札容疑者として報道され、捜査を受ける。のち1965年11月に、印刷を行った各印刷所の社長2名とともに、通貨及証券模造取締法違反に問われて起訴され、裁判となる。
弁護人には瀧口修造らの美術界の重鎮が名を連ね、話題となった。赤瀬川はあくまで、「千円札のニセモノ」としてでなく、「千円札の模型」として作品を製造したことを主張した。また、検察は「印刷所社長たちとの共謀」を主張したしたが、そのような事実はないと否定した。
また「千円札の模型」が芸術だという理解がない、裁判官に向けてアピールするため、高松次郎中西夏之らが弁護人として「ハイレッド・センター」の活動について法廷で説明し、当時における「前衛芸術」について説明した。また、他の関係者の「前衛芸術」作品も裁判所内で多数陳列され、裁判所が美術館と化した。
「前衛芸術」と、パロディ的作品の意味が、法廷で争われる裁判となり、美術史上に残る裁判となった。
だが、1967年6月の東京地裁の一審で「懲役3年、執行猶予1年、原銅版没収」の判決をうける。また印刷所の社長2名も有罪となった。
同年7月に、赤瀬川のみ東京高裁に控訴するが、1968年11月に「控訴棄却」される。そのためさらに、1969年1月に最高裁判所に上告するが、1970年4月に「上告拒否」され、有罪確定。
なお、この裁判の間、赤瀬川は作品として「零円札」などを制作した。

ということなのだ。


さらに引用すると。

(誤解)赤瀬川はニセ札製造犯人として逮捕された。
(正)ニセ札を作った場合は「通貨偽(変)造・同行使罪」で逮捕される。当時、「チ37号事件」というニセ千円札の偽造事件があり、赤瀬川もその事件を創作のきっかけとし、また、捜査当局も当初はその偽造団との関連を考え、捜査を開始した。だが、赤瀬川が制作したのは、「オモテ面だけの1色印刷」であり、「ニセ札」ではないことは捜査当局側でもすぐに、明らかになった。赤瀬川(等)が起訴されたのは、「通貨及証券模造取締法」という明治28年に施行された法律によるものであり、「貨幣、政府発行紙幣、銀行紙幣、国債証券及び地方債券に紛らわしきものを製造し又は販売することを得ず」という内容であった。捜査当局はこの法律に基づき、赤瀬川の作品が「紙幣に対する社会的信頼を損なうおそれがある」として、起訴した。


(誤解)赤瀬川は千円札の模写を行っていたが、それにあきたらず、ついに印刷所に千円札を持ち込んで印刷を依頼したところ、逮捕された。(現在、もっとも一般に流通している『千円札裁判に関する都市伝説』である)
(正)上記の経緯にあるとおり、1963年に2ヶ所の印刷所に印刷を依頼し、「芸術作品」として発表。印刷会社側も特に異論なく仕事を受けている。捜査を受けたのが1964年1月、起訴されたのは1965年11月である。

ということなのだ。


この本には、千円札裁判以外の文章も収録されているが、左翼臭が強くて読みに耐えない。
面白かったのが、「千円札裁判」に関連して、「紙幣を模造している例」を弁護士たちと探しまわるうちに、東映撮影所にいって「撮影に使う札束」を見せてもらう話。だが、その札束は全然紙幣に似ていなくて、だが、うっすらと影のようなものが書いてあって、遠目には「紙幣っぽく見える」という。


あと、松田哲夫と結成した、「革燐同」というマッチのラベル・コレクション集団の話もあって、これは面白かったなあ。