Chris Ware「Jimmy Corrigan: The Smartest Kid on Earth (Paperback)」

Jimmy Corrigan: The Smartest Kid on Earth

Jimmy Corrigan: The Smartest Kid on Earth

JIMMY CORRIGAN日本語版VOL.1

JIMMY CORRIGAN日本語版VOL.1

http://www.presspop.com/shop/chris_ware/cw_008.html
図書館本、読了。アメリカの漫画家クリス・ウェア作のグラフィックノベルの最高傑作とも呼ばれる作品。
全体の1/3が邦訳版として出ているのだが、東京都の図書館に所蔵されていないので、英語版を借りて読んだ。


360頁オールカラーの作品だが、非常に細かい手書きの文字でセリフが書かれており、またそのヴィジュアルも素晴らしいもので・・。最高の本だが、読み終えるのにかなりの労力を要した。


主人公の「ジミー・コリガン」は、シカゴに住む30代後半の若禿げで内気で、さえない男。彼はガールフレンドもおらず、老人ホームに暮すわがままな母親から毎日、電話がかかってくるだけの退屈な毎日を送っている。
そんなある日、 ジミーが物心つく前に別れてしまった実の父親から、「感謝祭に、こちらにこないか」と航空券が送られてくる。
父の住むミヒガンまで出かけたジミーだが、父は無意味に陽気な肥えた老人で、ふたりはぎこちなく退屈な会話を延々と繰り返す(その徹底した「退屈さ」は「アメリカン・スプレンダー」を連想させる)。この部分が全体の1/3を占めており、読み薦めるのが一番辛かった。


だが、途中で場面はかわり、1893年の「シカゴ万博」直前のシカゴを舞台に、ジミーの祖父のジェームズ9歳と、その冷淡な父親とのエピソードが挿入される。この「祖父ジェームズ」は容貌・性格ともジミーにそっくりで、母親も兄弟もいない彼は、父の冷たい態度に傷つけられ、また学校でもいじめられる。
「ジミー登場場面」の退屈な展開とは一転し、つぎつぎと様々な(主に暗いものだか)事件が起こる。
そしてその背景には、徐々に建築されて完成に至る、シカゴ万博の壮麗な建物が、ウィンザー・マッケイの「夢の国のリトル・ニモ」のような、古典的で幾何学的な描き方で配置されている。
「1893年のシカゴ」を、人々の生活&万博の美学まで含めて、忠実に再現させることにクリス・ウェアは細心の注意をはらっている。


マッケイとの共通的はその絵柄だけではなく・・。
ジミーも「祖父ジェームズ」も、その恵まれない境遇から常に「個人的な夢想」にふけっているのだが。その夢は、夢と明確に表現されることなく突然、「それまでの現実シーンと同じトーン」で挿入され、夢と現実とが渾然一体となった「ジミーとジエームズ」の心象世界を読者は体験させられる。
この「夢と現実との境目の無さ」こそ「リトル・ニモ」のメイン・テーマであり、特にジミーが突然巨大化する夢など、まさに「リトル・ニモ」的な夢世界の快感を味わえる。


後半では物語は再び現代にもどり、「96歳になった祖父ジェームズ」とジミーとは出会うことになり、また、過去と現在とを結ぶもう一つの関係も明かされる。


そして、ウェアのこの本のブックデザインの凝り様は、完全に偏執狂的である。
裏表紙には、「この本自体」を主人公にした漫画が描かれており、「書店での置き場所がないグラフィック・ノベル」はまったく売れず、作者のウェアは自殺する。
また、表表紙の次の頁には、「鼠が別の鼠を殴る」だけの2コマ漫画が例示され・・。このわずか2コマの漫画から、人間がどのような意味をくみとることができるかについての、図版つきでの詳細極まる説明がなされている。
その次の頁には、中心に地球儀が配置され、この漫画に登場する人物や建物がどこにあるか、どのように移動したかが、地球儀にリンクされる。また人物の成長史の小さなコマの連続、人物どうしから子供が生まれる連鎖、その人物が写っている写真・その写真に写っている別の人物というふうにリンクが延々と続いていく等等。
その他、「ジミーが変身を夢見るロボットの覗きカラクリの組み立てセット」「ジェームズが住んでいた家の組み立てセット」「それまでの粗筋を、ジミーを子供キャラにして描いた頁」などが挿入されている。


この圧倒的な世界観とビジュアル・イメージには、脱帽の他ない。