村上元三「思い出の時代作家たち」(文藝春秋 ASIN:4163500200)

図書館本、読了。倉阪鬼一郎日記で紹介されていたので(http://www4.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=442488&log=20060730)、読んでみた。
91年から94年まで「オール読物」に連載していたもの。そのつどそのつど、著者の思い出すままを書いたものを、そのまま本にしたものだから、話の脱線、重複が多い。
「時代作家たち」と言っても、そんなに沢山の作家のエピソードが出てくるワケではない。村上が師と仰いだ、長谷川伸、そして、長谷川伸が主催した「新鷹会」の話が一番出てくる(大阪の作家、長谷川幸延が「新鷹会」の会員だったというのが以外)。
下町大空襲で焼け出された著者は、長谷川伸の書斎に居候させてもらったりしている。あと、文士劇の話も盛んに出てくるが、これは私は興味ないああ・・。


この本を読むと、長谷川伸という人が、立派な人だったということがよくわかる。

  • 長谷川自身のエッセイにも書かれている話だが、箱根に長谷川伸の偽者が出て、女中に「金を貸して欲しい」と頼んだ。女中は金の工面を兄に相談したが、その兄が東京の長谷川伸宅に連絡して、偽者は御用となった。のちに、長谷川伸は、箱根に行った際、わざわざその女中に会い「偽者とはいえ、見も知らぬ長谷川伸に金を貸してくださろうとは、ありがたい」と礼をいったそうな。
  • 長谷川伸は、どんな目下の人と話す時も、いつも正座をしていた。 などなど。

あと、山岡荘八はいつも原稿が遅くて、「中日新聞」に連載した「徳川家康」で挿絵担当の木下二介は、いつも「絵組」(小説が間に合わないので、筋だけを説明した文)で絵を描かされていたという、気の毒な話もあった。