四方田犬彦「先生とわたし」(新潮社 asin:4103671068)

図書館本、読了。
四方田犬彦が、「メフィストファレス的に、知の豊穣な世界に導いてくれた」、師である由良君美について書いた本。
由良ゼミに参加した四方田が教えられた、自由で柔軟な思考法と、ハイカルチャーからサブカルチャーまで共通して存在する「原型」を掴む手法。これらを読むと、四方田のスタイルが、由良に大きく影響されていることがわかる。
だが、晩年の由良は、アルコールに耽溺し、また成功した弟子に嫉妬する、「堕落したファウスト博士のような、困った人」になり、四方田は師と和解しないまま彼の死を迎える。


なお、由良の、篠田一士江藤淳との不和なども詳しく書かれており、当方のゴシップ的な興味もかき立てる本だ。このあたりは、関係者がみな故人となったから、書ける内容なのだろう。


また、昨日、呉智英本を読んだばかりなので、呉智英的に突っ込みたくなる箇所が2箇所あった。
1つ目は、四方田本13ページ「高等小学校卒業の学歴しかもたない田中角栄が総理大臣となった」。
呉本では、190ページで、これは田中側の意図的な「学歴誤解放置」であって、「実際は戦前の中央工学校卒だから、現在なら大卒と同等」とある。


また、初期の呉本で確か指摘されていた「斜にかまえる」の誤用が、四方田本では、由良の態度をたとえる言葉として、何回も、登場する。
しかし、この「誤用」は既に「世の中を斜めから見るような態度」という意味で、辞書にも載るようになっているので、もう「誤用」ではないのだろう。