徳南晴一郎「弧客―哭壁者の自伝」(太田出版 ISBN:487233387X)

図書館本、読了。
90年代後半に発行された、フリーキーな漫画の復刻シリーズ「QJマンガ選書」中でも、異端中の異端として評価された「怪談・人間時計」。
発表当時、その漫画は読んだが、ナチュラルにゆがんだ感性に衝撃をうけた。


そして、当時、漫画復刻の一貫として、太田出版の編集者から依頼されて記述した「人間時計」の作者の「自伝」が本書。だが、私は、今回は初読だ。
徳南は、幼少時にかかったジフテリアで小人症となる。身長は140cmまでしか伸びず。異形ゆえ、常に苛めを受け、だが明晰な頭脳は持っていたため、「人間嫌い」が身につく。
絵心があったため、高校卒業後、貸本漫画家を志し上京するが、貸本業界不況もあり、10年弱で廃業。


その後は、写真会社に2年勤めたが、オートメーション化で、職人的技術が不要となったことに不満を感じ、2年で退社。
大阪に帰り、実家のパン製造業をてつだう。だが、大手のパン屋の東京からの進出により、実家はパン屋を廃業。


徳南は、通信教育で得たレタリング技術をもとに、「電気商工新聞社」に入社し、広告版下作成者に。やがて、手腕を認められ、広告取りや、記事・コラム執筆も行う。この時期は、徳南の人生でもっとも幸福な時期であったろう。
だが、勤務20年過ぎた後に、彼に目をかけていてくれた社長が引退し、息子が新社長になる。この新社長が見栄坊で、ミバの悪い徳南を、日々、迫害、冷遇する。
あまりの辛さに、50歳をすぎて、長年つとめた会社を退社。


彼は、数ヶ月の印鑑販売業に携わったのち、タクシー会社の無線配車係となり、老齢の未で夜間含む不規則勤務の仕事につき、定年の60歳まで勤める。
これらの勤務の間に、油絵や漢詩精作を趣味とする。


本書執筆時点で彼は64歳。現在も存命なら73歳である。その人生は自身でも「生涯における罰課」と感じており、「死こそは苦行よりの解放」である。
また彼は、迫害を受けつづけたため、異常なまでに潔癖症かつ癇症である。漫画家時代に、見合いで来た妻と、6畳1間で暮らすと、彼女の起こす音を「騒音」と感じ、耐えられず、数ヶ月で結婚生活は破却。
また、虫が住居に入り込むと、滑稽なほど必死になって絶滅させる。自宅庭に糞尿をちらす野良猫に耐えられず、まきビシ状のワナをしかける。


自分自身、人生における、かなりの「低調期」にあるおり、この本の、ユーモアのかけらもない、馬鹿真面目な「人間嫌い」精神あふれる本は、読み進めるのが苦痛であった。