アート・スピーゲルマン(小野耕世訳)「消えたタワーの影のなかで」(岩波書店 asin:4000225421)

図書館本、読了。スピーゲルマンが、父親の強制収容所体験記「マウス」以後に、初めて執筆するマンガで、「9.11」のショックから描かれたモノ。


あのタワーたちのすぐ側に住んでいたスピーゲルマンは、父親が行っていた「強制収容所体験は、言葉で説明できるものじゃないんだ」という言葉を始めて理解するほどのショックを受ける。そしてブッシュが、それを口実に無意味なイラク戦争を仕掛けたことに、苛立ちを隠せない。


そして、ドイツの新聞社から2002年に「超大判のマンガ」の執筆を依頼され、この本にまとめられるマンガを描きはじめる。その際のサイズはわからないが、刊行されたこの本は、A3版でその「見開き2ページ」をまるまる使って「A2サイズ」のマンガになっている。実際は、新聞の1面を丸々と、使ったのだろう。


スピーゲルマンが描いたマンガは、「9・11」の体験と、その後のブッシュ政権の間違いからくる悪夢を、様々な絵柄で描いている。
「マウス」のネズミの絵柄や、彼が愛する、20世紀初頭の様々な、新聞マンガ(日曜新聞のコミックス付録)たちの形式を借りて、大きなページをさまざま多彩な絵柄で描き分けて、われわれを幻惑させ、そして我々が悪夢的世界にいることを感じさせる。


この本の後半は、スピーゲルマンが元ネタにした新聞マンガたちの復刻で、その「ピクチャレスク」なマンガたちは、どれも素晴らしい。ここにあげると。

  • ライオネル・ファイニンガー「キンダー・キッズ」
  • グスターヴ・ヴァーベック「リトル・レイディ・ラプキンスとマファルー老人のさかさま物語」
    • 一度読んで、上下ひっくり返して読むとまた話が続いているというものがだ、以前、私が目にしていたモノと少し違う。そして、こちらのほうが素晴らしい。
  • ウィンザー・マッケイ「まどろみの国のリトル・ニモ」
    • ニモとジャングル少年、そしてフリッツがニューヨークのビル街で巨大化して歩きまわり、フリッツはゴジラのようにビルを壊して歩く。
  • ジョージ・マクマナス「おやじ教育」
  • ジョージ・ヘリマン「クレイジー・キャット」