久坂部羊「大学病院のウラは墓場」(幻冬社新書 asin:4344980042)

図書館本、読了。これは良書。「医療は絶対的な安全を」という、マスコミや世間の過剰願望を否定。
「医者はスーパーマンではなく、ただの人間であり、医療にはどうしても危険が伴う」「新人の医師は、患者を練習台にして技量を磨くしかない」という本音を語っている。


そして、題名はいささか不適切。この本では、現在の「医療崩壊」現象がなぜ起きたかを、「必要悪」としての「医局制度」を破壊したせいと論じ、「医師が尊敬されなくなったため」、キツクテ過酷な勤務を行うためのノーブレス・オーブレッジが失れたという。
後書きにあるが、

旧弊な医局制度が崩壊し、医師は自由を得た代わりに、安定と将来の保障を失った。世間は不透明な寄付や名義仮りをしなくてもすむようになった代わりに、地域医療と産科医・小児科医を失った。患者は医療訴訟で守られるようになった代わりに、訴訟のリスクの高い科の医師を失いつつある。
大学病院は過去の栄光が忘れられず、巨大化して多くの矛盾を抱え込んでいる。世間の期待に押され、診療に重点を置かざるを得なくなって、医学の発展という本来の役割に手が回らなくなった。

というのが、本書の結論である。