塩村耕「こんな本があった!江戸珍奇本の世界 古典籍の宝庫岩瀬文庫より」(家の光協会 asin:4259547046)

図書館本、読了。
岩瀬文庫は、愛知県西尾市にあり、明治の実業家・岩瀬弥助が独力で江戸時代の珍しい本を集めた、私立図書館。ここにしか残されていない、貴重な古典籍も多数あるという。
著者は、この図書館の目録を作るため、蔵書1万2千冊に目を通したという。その中から、色々と面白い本が、紹介されている。


なかでも、面白かったのが、横田順弥が知ったなら「日本SFこてん古典」で絶対、紹介しただろう、墨化道人「礫渓猿馬記録」という本。
著者がうたたねをしていると、隠者に招かれて不思議な場所に招かれる。

たとえば、黒き姿の旅人が数千人となく列をなして行き交うのに出会う。お互いが出会うごとに立ち止まり、抱き合ってから行くのを見て、礼儀があるのだなと感心していると、隠者のいわく、あれは礼儀ではなく、口が生臭いので互いになめあって味を確かめあっているのだ。あるいは、褌もつけない赤裸の男たちが湖水に浮かび、鼓を打ったり笛を吹いたりして踊り騒いでいる。そこに薄物の衣をまとった美女たちが現れ、振袖を翻して舞い遊ぶ。湖の男たちは、よだれを流してそれを見つめている。
そうこうしているうちに日がとっぷり暮れて困っていると、尻に松明をはさんだ者が来て道しるべをしてくれる。また、著者の足を気遣って、蝸という牛に乗せてくれるが、あまりの足の遅さと生臭さに閉口する


この風景は、実は著者の庭で、小さくなった著者が庭のあちこちで生き物たちと出会うという趣向。
登場順に、蟻、蛙、蛍、蝸牛が、擬人化されていたのだ。
蟻がお互いの匂いを嗅ぎあっている、というのを観察しているのが、鋭い。