大串夏身「ある図書館相談係の日記 都立中央図書館相談係の記録」(日外アソシエーツ )

図書館本、読了。


都立中央図書館のレファレンス係だった著者の1988年9月〜1999年1月の間の、毎日「カウンターで100件」「電話で200件」の相談を受ける日々を描いたもの。
「ネット時代以前」は、こんなにも、多くの人たちが図書館のレファレンス係に頼っていたのかと、感慨。


たとえばある日の電話相談と回答はこんな具合。こういうことを電話で聞いてくる人たちは、図書館のレファレンス係を「電話代だけの負担で何でも調べて答えてくれる、便利屋さん」と思っていたのかなあ。

  • 昭和13年当時、「東京府」だったのか「東京都」だったのか。
    • 東京都は昭和18年の創設。
  • 昭和40年5月29日は旧暦で何月何日か。
    • 「万年暦決定版」五立命学会で回答。
  • アジア・アフリカの歯の治療方法・治療事情について書かれた本はないか
    • わからないので、「自然科学室」にまわす。
  • JISハンドブックはないか
  • 海洋・マリンスポーツ関係の雑誌はどのようなものが発行されているか。またその部数はどのくらいか。
    • 「雑誌新聞総かたろぐ」(メディア・リサーチ・センター)で回答。
  • 「都死交通年鑑」の最新版があるか
  • 「日本ファシズム」第1巻を所蔵しているか
  • 看護・保健関係の専門書はそろっているか
    • 具体的なテーマを聞くと「老人介護」についてだった。
  • フランチェスカ・アルバーニ(中世のバロック画家)の絵がどの本にあるかわからないか
    • 図書館の「人文科学室」で作成している「美術全集絵画索引」でわかった(こういう「検索用」の独自のインデックスを様々に作っていたらしい)。
  • 白書はあるか
    • これも具体的に聞いてみると、「土地の高騰を書いた白書がほしい」ということなので、「国土利用白書」国土庁を紹介。
  • 市町村別の世帯数、人口、経済力、通勤通学者数などのデータはわかるか?
  • 宇井正一郎、黙斎の生没年はわからないか?
    • 「日本人名大事典」平凡社で判明
  • 民間補助金ガイドはあるか
  • 藤原家の家系図で詳しいものはあるか?


ちなみに、対象とされたこの時期も実に絶妙で、昭和天皇が病床についていた時期だから。新聞の縮刷版の「大正15年12月」と「昭和2年1月」は超人気で、館内でもひっきりなしに「借り出し中」。
また、この時期は、書籍データを「オンライン・データベース」に投入作業をしている最中で、古い本はデータベースで探せるが、新しい本はカードで調べるという、複雑な検索をしていた時期。


あと女子大生たちが「大学のレポートで○○について調べてこいといわれたのだが」と相談することも、とても多かったようだ。わざわざ中央図書館までいかなくても、地元の区立図書館のほうがいいと思うのだが。


ちなみにある老年ライターの人が、「近世文書を、テレビ局経由で国立国会図書館から借りたのだが、そちらではできないのか?」と難癖をつけたこともあったようだ。
国立国会図書館がそんな便宜を図ったとは驚きだが(そんなこと、やっていいの?)