巻き込まれ型小説の快作 小森収「終の棲家は海に臨んで」(れごりべーれ ISBN:4939138119)

図書館本、読了。
編集者、ミステリ評論家、演劇評論家として高名な小森収の、2003年刊行の初の小説。
発行の「れごりべーれ」というのは小森氏の個人レーベルかな(発売は、小森氏と縁の深いフリースタイル社)。


外務省の中堅キャリア職員が主人公。淡白な常識人である彼が、アメリカ勤務中に起こした不注意な行動から、玉突きのように次々と運命が変わり、外務省内の「閑職」に左遷され続けていく。
現実に起きた、外務省関連の政治的事件やスキャンダルが小説の背景にはる。それらをスムーズにプロットに取り込んでおり、また様々な思惑を持った登場人物たちの造形も見事で、処女小説とは思えないリアルな物語。
1点、現実の日本とは違う「架空設定」を入れているのも、効果的だ。


小説のテイストとして、小森氏がリスペクトしている人物である、小林信彦の作品も連想させる。
「派閥的な行動に無関心な人物」が不条理な陰謀に巻き込まれていく様は、「夢の砦」や「結婚恐怖」を。「現実の事件をプロットに取り込む」のは、「極東セレナーデ」を連想した。