映画「今年の恋」

衛星劇場で。木下惠介が脚本・監督のホームドラマ、コメディ。62年の松竹の正月映画ということだが、相当のトンデモ映画だった。木下恵介のゲイ的な感覚(?)が全開。

まず、オープニングクレジットで、なぜか様々な「ヴィーナスの絵画」が写される。恋愛映画だからって何故にヴィーナスの絵・・・。
そして映画のはじまりは、高校の親友である田村正和と石川竜二が、学校の先輩にいじめられる場面。なぜかそこに、明るく軽快なハープ音楽が・・・。いくらコメディ映画でも、この組み合わせはひどすぎる。
その後、田村正和のガール・フレンドが2人登場。母親が死んで、自宅には婆やとお手伝いさんしかおらず、寂しくしている田村と、彼についての描写が続く。それでてっきり、田村正和が主人公なのと思いきや。


彼ら親友、それぞれの兄・姉の吉田輝雄岡田茉莉子の、スクリューボール・コメディ的な恋愛話に、強引にかわってしまう。田村たちが不良におどされるシーンも、冒頭に3回くらいあったのに。その後は無視されている。


吉田と岡田の出会う場面もすごくて。
岡田が実家の料理屋で働いているところに、大学院生の吉田が、彼女を連れて別れ話に来て。怒った彼女にビールを顔にぶっかけられる。
元来のシナリオを元にしているらしい、goo映画の「あらすじ」では、「友人の広瀬道子に一方的に求婚され、彼女の一人合点を納得させようと愛川ののれんをくぐった」とあるが。吉田の演技が悪いのか、監督が演出プランをかえたのか。吉田が一方的に悪く、自分の都合で彼女を捨てたようにしか、見えない場面になっている。


その他にも、高校生の田村正和が、夜中に幽霊を怖がって、兄の布団に入ってきて、一緒に眠られせてもらうという、気持ち悪いシーンもあるし。
監督の弟の木下忠司の音楽が一本調子に明るくて、これまた気持ちわるい。こういう映画が「お正月向けコメディ」として受け入れられていたことが信じられない。


最後は、なぜかみんなで京都にいって。年越しの鐘を一緒について、強引にめでたしめでたし。題名の「今年の恋」はそういうことだったのかと、ようやくわかる。
田村正和と石川竜二は、ボクシングを習って、いじめっ子の先輩たちに復讐するはずだったのに。そのプロットはおいてきぼり。
まあ、どの映画会社も、かつての「お正月映画」はこういう物だったのかな。スターをたくさん出して、最終的にめでたければよかったのか。