斎藤茂男『ルポルタージュ 父よ母よ!』(講談社文庫96年、元本79年刊行)の「UFO娘の軌道」について

木下恵介監督の80年の社会派映画『父よ母よ』に「UFO、SF好きの不良少女」が出てきたので、その原作本を読んでみた。


第Ⅲ章「少女漂流」の最初の節「UFO少女の軌道」より。

深夜のディスコで
(略)
100人は超しそうな男女が踊っている。肩を左右に揺さぶり、ときどぎ両手をまえに泳がせてヒラヒラさせるのは”UFOを呼びよせる”流行の踊りとか。
(略)
じつは、私たちがこのディスコで一夜をすごしたのも、中学一年のときからのディスコがよいから急角度で非行への道へ走りさったUFO好きの少女・江美の姿を求めてのことだった。

UFO研究家・平野威馬雄氏によると、UFOファンは100万人はいるだろうといわれ、中学生のあいだではグループで手をつないで円陣を組み、「ベントラ!」「ベントラ!」と言いながら、宇宙人を呼び寄せる遊びが流行しているという。(略)専門の月刊誌が10万部も出ていて、その購読者の中心も中学生という。

天体観測が好きで、よく二階の屋根に登って星空をながめていた江美が、そのUFOにとりつかれるようになったのは中学一年からだ。奇妙な絵をかいたり、UFOの本に夢中になったりした。夜遅くまで空を見つめているので朝起きられず、怠学の日が続いた。小悪魔阿矢子とのディスコ遊びがはじまってからも、彼女の超現実への指向は衰えなかった。SF、怪奇小説、オカルト、コックリさん、仙人……、彼女はそんな本を読みふけっては学校を休んだ。

夢遊病
(略)
二年の二学期ごろから、江美は急速に変貌していった。髪を染め、マニキュアを塗った。そして、阿矢子や男友だちからの電話がかかると、夢遊病者のようにその声の誘いに引き込まれてしまう。
横浜にあるP心療研究所へ、P先生をたよって、中学二年になっていた江美がとつぜんころがりこんできたのは、前年10月のある日、もう午後6時をまわるころだった。
(略)
だが、足元がふらつき、ロレツがまわらない。あの大企業エリート社員のお嬢さんとはとうてい想像もつかない変わり果てた姿だった。(略)
家には帰りたくない、帰れば父親になぐられる。ここに泊めてほしい……という。

江美はP先生に対して、自分の遊びまわった世界をむしろ誇らしげに話す。
「先生、ディスコっておもしろいよう。それに働いている人、みんないい人なんだ」
自分も将来ウェイトレスになりたいと真顔でいう江美。彼女は無意識のうちにエリート一家のなかに欠けている何かを、その世界にもとめていたのかもしれない。優しさ、人間くささ、そういった何かを。

子供たちに現代があまりにも荒涼としているために、彼らはあの「UFO」の歌のように、宇宙人への愛を語ろうとするのだろうか。