ウィリアム・ヒントン『百日戦争 清華大学の文化大革命』(春名徹訳、平凡社、ASIN:B000J9FMZK)

図書館本、読了。


著者はアメリカ人の毛沢東主義者で。1958年に農学者として中国の農村により、「共産党による農村改革」を目撃して、その分野の古典的著作『翻身 ある中国農村の革命の記録』という本を執筆した人。


そんな人が書いた、文化大革命についての本なので、どうせ単なる「文革礼賛本」かとおもったら、かなり「良心的な」本であった。文革の目的自体は支持しながらも、清華大学(中国で一番の科学系大学)での紅衛兵うしの権力闘争を、丹念な取材で批判的に描いている。
そして、この本で「英雄的」に描かれるのは彼等学生の闘争を止めるために「無私の心で突入した工場労働者たち」なのだ。結局のところ、「労働者=正なるもの」という神話は、ヒントンの中で維持されているのだが。


この本は原書は1972年出版。翻訳本が刊行されたのは1976年11月だが、同年10月には「四人組」が逮捕されている。
うーん、微妙な時期に出版されているなあ。


ちなみにヒントンの娘のカーマ・ヒントンはドキュメンタリー監督で、映画『天安門』の共同監督の一人である。


妹のジョアン・ヒントン原子爆弾の開発にかかわった物理学者で、後に中国に移住して酪農研究者となった。
パール・バックの原爆開発を扱った小説『神の火を制御せよ』に登場する天才女性科学者のモデルも、彼女らしい。
http://www.komichi.co.jp/maegaki/maegaki_127.html