わがロスト・ワールド 石上三登志

*少年冒険小説<恐竜の足音>を読み、興奮感激する。後にこれがドイルの<ロスト・ワールド>の翻案であった事を知る。作者は高垣眸だったと思う。
手塚治虫の科学漫画<前世紀星>にて、恐竜漫画にはじめて出会う。
南洋一郎の冒険小説<緑の無人島>、表紙の恐竜につられて購入。コモド島のトカゲの類であるのに失望する。
山川惣治絵物語<少年王者>を読む。湖より出現したブロントサウルスと、怪人アメンホテップとの対決に狂喜する。
松下井知夫の科学漫画<新バグダッドの盗賊>に、ブロントサウルス型ロボット出現。この漫画で、SF好きが決定的となる。
福島鉄冶絵物語<コンドル魔島>及び続篇<コングの猛襲>(逆かもしれない)で、恐竜大安売りを楽しむ。
手塚治虫の<ジャングル大帝>、大団円近くに恐竜発見。
さらに<化石人類>他で手塚産恐竜にとりつかれる。
*わが家の古本の中から<のらくろ>を発見。山と間違えて恐竜の背中に登るくだりのみ記憶する。
山川惣治の<少年ケニヤ>、ティラノサウルスの活躍にニコニコする。
*ワイズミュラー主演<ターザン砂漠へ行く>を見る。実物トカゲの拡大合成なるも、動く恐竜に大感激する。
*前世紀映画<紀元前百万年>を気る。映画の恐竜に失望を感じはじめる。
*戦後再上映された<キング・コング>を見る。ス力ル・アイランドに出没する、愛すべき恐竜達に熱狂、熟を出す。
翌日再び見る。腹をくだす。翌々日ポスターをかっぱらう。
恐竜アニメーター、ウィリス・オブライエンの名を知る。
*小山書店より世界大衆小説全集の第一巻として、待望<失われた世界>全訳か出版される。大仏次郎訳である。一気に読了、発熱する。
*映画<失われた世界>封切られる。解熱剤ポケットにかけつけるも、恐竜シーンのすぺてが<紀元前百万年>のそれであるのに愕然、発熱する。ドイルとはまったく関係ない三流映画であった。
*映画<踊る大紐育>を見る。ジーン・ケリイやシナトラよりも、博物館シーンの恐竜の骨に見とれる。
*映画<ゴジラ>を見、大いに怒る。
*映画<原子怪獣現わる>を見る。後に原作がブラッドベリの<霧笛>であることを知る。当時のメモには、バラドバリイとかいてあった。恐竜アニメーター、レイ・ハリイハウゼンを知る。
*ディズニイの長篇アニメ<ファンタジア>を見る。<春の祭無>の恐竜大バレードに感激する。
ウィリス・オブライエンレイ・ハリイハウゼン共演の<動物の世界>を見る。
ジュール・ヴェルヌ地底旅行>を読む。
ブラッドベリの<霧笛>、<雷のような音>を読む。バンタム版だったと思う。
*シネマスコーブ版<失わわた世界>公開。その実物トカゲ拡大に激怒する。
シネマスコープ版<地底探検>公開。再びトカゲで激怒する。20世紀FOXのSF映画を信用しないことにきめる。
*テレビの<鉄腕アトム>放送開始。<タイム・マシンの巻>で動く手塚恐竜に会う。
*テレビで、戦前公開の<コングの復讐>を見る。オブライエン恐竜に再感激する。
*テレビの<森繁のハリウッド劇場>で、オブライエンのアニメートした<ロスト・ワールド>の断片を見る。しばし狂う。
フレドリック・ブラウンの<晟後の恐竜>を読む。
*<キング・コング>劇場最後の公開を見る。渋谷東映地下なり。
*フランスの映画雑誌<ミディ・ミニュイ・ファンタスティク>のオプライエン特集号を入手。一週間ほどヒステリックになる。
*ハリイハウゼンの<恐竜百万年>を見る。<紀元前百万年>の再映画化である。
*ハリイハウゼンの<恐竜グアンジ>を見る。故オブライエンのアイデアと聞き、涙する。
*新訳<ロスト・ワールド>を読了。これが、何よりもまず、秀れた”小説”であることを痛感する。
 チャレンジャー教授に、探偵小説でいえば、ディクスン・カーメルヴィル卿、レックス・スタウトネロ・ウルフの原型を見る。すなわち、キャラクターのオリジナリティであり、厚みである。そんなキャラクターが、SF界に何人いるのだろ。ネモ艦長、ダニエル・ブーン・デイヴィスと護民官ピート、チャーリイ・ゴードンとアルジャーノン、ライスリング、イライジャ・ベイリー、グリフィン、ガリハー・ホイル……
 メイプル・ホワイト・ランドに、様々な虚構世界の典型を見る。バルスーム、ペルシダー、ディック風インナー・スペース、ベスター風超感覚世界、ヴェルヌ風海底、光瀬風未来……
 そして、次々に展開するプロットの妙に、イギリス・ロマンの伝統を見る。H・R・ハガード、ジョン・バッカン、イアン・フレミングアリステア・マクリーンディック・フランシス……
 僕はSF好きだが、マニアではない。だから、まずそれが”小説”として面白くなければ、それ以上の評価をしないし、SFとしても認めない。SFにはいい”小説”が少ない。SFであるためでなく、小説であるために、後世に残ってほしい。わが<ロスト・ワールド>は、まさしく”小説”なのである。
 アリゾナ州モニュメント・ヴァレイに行く。この、フォード西部劇の背景が、太古のころ恐竜の本場であったことを知り、うろたえる。イグアノドンの足跡に、ドイルの<失われた世界>の巻類句を思う。


″半ぶんおとなの男のお子か
半ぶん子供の男の衆が
一時なりとも喜びなさりや
へたな趣向も本望でござる″(大仏次郎訳)